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​佐川町立図書館 さくと

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〝あいだ”をつなぐ広場

 高知県の中西部に位置する佐川町。幕末には家塾「名教館」から多くの志士や学者を輩出し、のちには県内初の私設図書館「青山文庫」がつくられた文教のまちである。また日本植物学の父ともいわれる牧野富太郎の出生地で、町民たちの会話からはときに草花や木々の名前が聞こえてく。そんな町の図書館建替え計画である。 建替前は旧法務局を利用した書庫もない小さな図書館。当時の館長が「日本一貧乏な図書館かもしれない」と回顧するほど少ない予算ながら、日々自分たちで設えを工夫したり、「飛び出す図書館」として町へと繰り出したりと地道な活動を広げてきた。「文教のまちにふさわしい新しい図書館を」という町民の声は次第に高まり、人口の約三分の一にものぼる四千以上の署名が集まった。それから開館まで十五年以上。新図書館の建設はまさに町民たちの運動の歴史だった。


 プロポーザルで示されたのは図書館と交流スペースとの複合化と、大人も子どももともに学び合う場を目指した実空間と情報空間の融合。公示後すぐに佐川町入りして町民の方々に話を伺うと、みんなで町の未来を描き出す「みんなでつくる総合計画」にはじまり、まちまるごと植物園やさかわ未来学、自伐型林業とデジタルファブリケーションなど多様な活動が芽を出していることがわかった。 私たちに問われていたのは、「佐川町でつながれてきた想いのバトンをどう未来へとつなぐのか」。「情報」は単に本や雑誌、デジタル資料にとどまらない。土地や風土に根ざす活動や学び合いの歴史、そこにかかわる人の知恵や経験もまた大切な情報であると解釈し、それらが佐川町と周辺地域はもちろん日本各地や世界まで届くような場やシステムがつくれないかと考えた。


 私たちが導き出したコンセプトは、まちの活動の“あいだ”をつなぐ広場。新しい図書館に求められるのは「やってみたい!」という小さな思いと、まちを舞台に生まれるさまざまな活動のあいだをつなぐことだと考えた。人や活動そしてまちのこれまでとこれからをつなぐ場を構成する概念として、スタジオ、ガイド、ミドルメディアの三つを提示した。 一つ目は活動がしやすい場としてのスタジオ。まちのあらゆる場所を活動が育まれるフィールドと捉え、そこで得た学びを互いに共有し形にする場として、閲覧室を拡張した。 二つ目は図書館司書や職員のみならず、多様な知恵や経験をもつ町民が新たな情報の導き手となるガイド。レファレンス・レフェラルサービスを広く解釈し、担い手を増やす取り組みだ。 三つ目は人や活動にひもづく情報の間をつなぐミドルメディア。館内・町内の間を縫うように移動し、展示にも活用できるモバイル本棚や、図書館にかかわるさまざまな活動の模様やそこから生まれた知見や情報を町内外へと広げ、アーカイブする役割をもっている。


 盆地のこの町からは周囲を囲む四国山脈の山々が印象的に映る。高知の厳しい風雨に対応できるよう深い軒が人々を迎え入れ、周囲の山並みに呼応するようなおおらかな屋根をもつ木造の建築を考えた。 建物内を散策する間に新しい情報に触れながら、思索にふける。「知る↓考える↓学び合う」というサイクルが循環・深化するような場所となるよう、柱が数本集まった大黒柱と中庭の二つを中心とした「8」の字を描く平面計画としている。二つの中心を起点に滞留・回遊、そして発散・収束を示す「8」の形状は学び合いのサイクル、そしてまちの活動の“あいだ”をつなぐ広場にふさわしいと考えた。8 の字の動線沿いにはそれぞれの活動に特化したスタジオを設け、本だけでなく、新たな人や活動との思いがけない出会いのある場となっている。大きな開口に面した明るく開放的な場所がある一方で、天井が低く静かにこもれる場所もある。一人でもみんなでも気分や活動に合わせて、それぞれの居場所がある図書館になればと考えた。できるだけ柱の少ない大空間を確保するために独立柱は一箇所に集約し、その他は壁内または建具内に納まるように計画している。八つの柱が寄り集まった大黒柱は「新しい図書館を佐川町に」という町民の方々の想いを象徴し、学び合いの広場全体を支えている。その下では本に親しみ、楽しみながら活動に参加する風景が育まれていく。新たな図書館がまちを舞台に生まれるさまざまな町民の活動をつなぎ、町内外へ、そして未来へとつながっていくことを切に願っている。

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​■実施設計

​■基本設計

​■プロポーザル

未来のさかわを育んでいく「学びの広場」

高知県佐川町の図書館の現地建替の計画である。2021年末にプロポーザルにて選定され、2024年度中の開館を目指して設計を進めている。
図書館に加えて利用者がともに学び合う交流スペースが併設され、町の新しい文化の拠点として、町内にある文化ホールや公民館などの文化施設のネットワークの中心として、まちづくりにも寄与するような建築、運営の仕組み、そして情報環境の構築の提案が求められた。

新文化拠点、そしてまちを舞台に、ともに学び、ともにつくるための3つの概念、
「新たな活動へと導く人:ガイド」「活動がしやすい場と機会:スタジオ」、「人と情報をつなげる術:ミドルメディア」導入を提案した。
既存樹を残した中庭と図書館の象徴となる大黒柱を中心に8の字をえがく平面構成としている。建物の中心部に閲覧室を、外周部に会議室やスタジオなどを配置し、周囲にいくとより個別の活動ができる構成としている。

佐川町新文化拠点(仮称)整備基本設計業務プロポーザル 最優秀賞

​​期間:2021.10-2024.10

用途:図書館、文化交流施設
敷地面積:2,194.72㎡
建築面積:1,180.91㎡
延床面積:1,131.15㎡
階数:1階
構造:木造

共同設計:​​ハウジング総合コンサルタント、森下大右建築設計事務所

構造設計:片岡構造

設備設計:建築エネルギー研究所

ランドスケープ:oriori.inc​​

情報設計:リ・パブリック

サイン・グラフィック:UMA/design farm
テキスタイル:Haruka Shoji Textile Atelier

​施工:岸之上工務店

写真撮影:竹田俊吾

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